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第十九話 それぞれの役割

Penulis: 月歌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-24 11:00:00

◆◆◆◆◆

「魔王っていう共通の敵がいたのに、人間同士で争うってどうなんだよ……」

遥は呆れともつかない疑問を口にした。

ルイスは穏やかな口調で答える。

「魔王討伐の最中にも、隣国との間で領地を巡る小競り合いは続いていました。そして、魔王が倒れた今、それが本格的な争いへと発展する可能性もある」

遥は驚いた。

「……そんなこと言ったら、魔王を討伐したコナリーの立場がないだろ」

そう言いながら、遥はちらりとコナリーを見る。

しかし、コナリーは否定することなく、静かに頷いた。

「魔王が支配していた領土を巡っても争いが起こるでしょう。魔王の存在が、ある意味では国同士の均衡を保っていた部分もあるのです」

暗い雰囲気があずまやに広がる。

だが、そんな空気を払うように、ルイスが明るい声で言った。

「それにしても、サンドイッチが美味しそうですね。私にも一つ分けてもらえますか?」

その軽やかな言葉に、遥はほっと息をつく。

「もちろん、いいよ」

サンドイッチを手渡すと、ルイスは笑顔で受け取る。

その何気ないやりとりが、張り詰めた空気を緩めてくれた気がした。

遥は気さくなルイスに、自然と好感を抱く。

しかし――

それを見ているコナリーの心には、言葉にできない引っかかりが残った。

◇◇◇

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